ルールメイキングで対象とすべきルールとは何か?
規制は本当にコストでしかないのか。HBS「Note on Rules」を手がかりに、企業活動を規定するルールを「規制・規格/標準・規範」の3類型に整理し、好意的・不利・不確実なルールにどう向き合うかを、トイザらスやコノコの事例から読み解く。
- ルールは事業のインフラ。短期にはコストに映るが、事業環境を安定させ不確実性を下げる。「守るか避けるか」ではなく、経営戦略に取り込む対象として捉える。
- 企業行動を規定するルールは3類型——規制(Regulation:国家が制定し罰則をもつ)/規格・標準(Standard:業界・専門家が合意する技術・業界基準。事実上の強制力をもつことも)/規範(Norm:文化・習慣に根ざす非公式ルール)。
- ルールは固定ではなく、政治・社会の動きで変化しうる。好意的・不利・不確実というルールの状況に応じ、交渉・段階投資・ヘッジで能動的に関与できる(トイザらス/コノコの事例)。
「ルール」が企業戦略に及ぼす影響
ルールは、企業が成長するうえで欠かせないインフラのような存在です。
短期的なビジネスの視点では規制が障害に映り、コスト要因として語られることが多いかもしれません。
しかし、持続的なビジネスを考える際には、ルールが事業環境を安定させ、不確実性を下げる効果をもたらす点も見逃せないと思います。Harvard Business Review(HBS)がまとめた “Note on Rules”では、ビジネスにとって不可欠なルールという存在を体系的に整理しています。
ルールの3類型――規制(Regulation)、規格・標準(Standard)、規範(Norm)
Note on Rulesによれば、企業の行動を規定するルールは「規制(Regulation)」「規格・標準(Standard)」「規範(Norm)」の三つに大別されます(正確には、RegulationはLaws(法律)という言い方がされていますが、一般的にRegulationとStandardが対比されて説明されることが多いため、ここではStandardという言い方を用いることにします)。
いずれも企業活動に大きな影響を与えますが、成り立ちや強制力を発揮する仕組みが異なりますので、それぞれの特徴を押さえる必要があります。
最初の「規制(Regulation)」は、国家が制定し、違反すると罰則や制裁が科される強制力をもつルールです。民主主義国家では議会を通じて成立する一方、権威主義体制では、指導者が事実上規定できるなど、規制の成立過程は国ごとに大きく異なります。
2つ目の「規格・標準(Standards)」は、企業や業界団体、専門家などが合意形成して作り上げる技術基準や業界基準を指します。
ISO規格のように世界的に浸透しているものもあれば、各国の業界団体が独自に策定する自主基準や、第三者の認証機関が示すガイドラインなども含まれます。法律ほどの拘束力はない場合があっても、市場で「これを満たさないと受け入れられない」という事実上の強制力を発揮するケースもあります。
さらに、環境保護や労働条件に対してNGOや市民団体が厳しい視線を向ける動きも強まっており、こうした道徳的プレッシャーを踏まえ、企業の行動を規定する基準を策定することも増えています。
最後の「規範(Norm)」は、文化や宗教、習慣など社会に根ざした非公式なルールです。法律などの公式なルールに規定されていなくても、違反すると社会的な制裁を受けるようなものが該当します(例えば、中国の「関係(グアンシー)」やインドの「カースト」などが例として挙げられます)。
原典から見る「マネジメントの意思決定」への示唆
「Note on Rules」では、具体的な事例を提示しながら、マネジメントが置かれる複雑な状況を整理しています。そのなかでも、好意的なルール、不利なルール、不確実なルールという三つのパターンが示され、企業の意思決定にどのような影響を及ぼすのかを考察している点が特徴です。
好意的なルールの例としては、インドネシアのスハルト政権が工業化を進めていた時期に、外資系の製造業が高関税や補助金といった保護措置を受けて急成長した事例が挙げられています。国の方針と事業の方向性が合致すると、想定以上の追い風が吹く好例です。
一方、不利なルールの例としては、日本の大店法などの流通慣行のルールが挙げられています。しかし、日本市場におけるToys “R” Usの参入では、このような不利なルールに対して、米国政府を巻き込んだ交渉を通じて大型店舗の出店に成功したことが説明されています。日本政府・日本の企業にとっては交渉に負けた事例と捉えるかもしれませんが、米国企業からすると、国際競争の中で、不利なルールを変えることができた事例になります。
また、不確実なルールとしては、ロシアの政治・行政が流動的だった時期に、エネルギー企業のコノコは、複数の国際機関をエクイティ・パートナーとして取引に参加させ、投資を段階に分け、また、ロシア当局が投資の一部を利用できる可能性を低くするため必要なインフラをすべて自前で建設しました。このように、国際機関を巻き込んだり、投資を段階的に行う手法は、不確実なルールへの対処法として重要な示唆を与えます。どのようなルールが適用されるか見えにくい状況でも、複数のヘッジ策を講じることでリスクを軽減できるのです。
これらの事例は、ルールが一度決まると固定化されるわけではなく、政治や社会の動きに応じて柔軟に変化し得ることを示しています。国家や業界団体、NGOなど、多様なステークホルダーの利害が絡むため、企業も必要に応じて交渉や意見表明を行いながらルール形成のプロセスに参加していくことが求められます。
おわりに――ルールがもたらす機会とリスク
「Note on Rules」が強調しているように、企業を取り巻くルールは社会規範・法律・スタンダードという三つの軸をベースに分析できますが、国や業界、政治情勢によって具体的なあり方は絶えず変化していきます。ルールを守るか避けるかだけではなく、経営戦略に取り込み、必要に応じて提案や交渉を行うことで、思わぬチャンスが生まれる場合もあるでしょう。
グローバル化がさらに進むなかで、新たな規制や社会規範が企業活動に影響を及ぼす可能性は高まり続けています。しかし、ルールはビジネスの成長を阻むだけの存在ではなく、市場を秩序づけることで企業の安定性を高める一面も持ち合わせています。どのように活用すれば自社にとって有利に働くのかを模索し、適切なリスク管理を行うことが、競争力を強化するうえで欠かせないポイントです。
社会規範・法律・スタンダードは一朝一夕には動きませんが、だからこそ長期的な視点で取り組む意義があると考えられます。企業が国内外で持続的に成長していくためには、こうしたルールへの理解と活用の視点が今後ますます重要になるでしょう。
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