分析

「対話で政策をつくる」とは、実務では何をすることか

政策への関与というと「要望書を出す」ことを思い浮かべがちです。しかし実務の核心は、一度きりのお願いではなく、論点を関係者と一緒に編集していく継続的な対話にあります。何を持ち込み、どう筋を立てるのか——「対話で政策をつくる」の実像を解説します。

長島 淳史 2026年7月16日 9 min read
要点
  • パブリックアフェアーズ(PA)における政策への関与の実質は、一度きりの「要望」ではなく、論点の立て方そのものを関係者と一緒に編集していく継続的な「対話」にある。
  • 対話に持ち込むのは、エビデンス(立場の異なる相手とも共有できる事実)と、公共的な筋(自社の求めを社会の言葉に翻訳したもの)。
  • 対話には時機がある。政策の段階に応じて有効な対話は変わり、準備は議論の窓が開く前から始める。相手は中央省庁・国会議員だけでなく社会全体に及ぶ。

「政策に関与する」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、要望書を携えて中央省庁や国会議員のもとを訪ね、こちらの求めを伝える——という光景かもしれません。もちろんそれもパブリックアフェアーズ(PA)の一場面ではあります。しかし、実際に制度が動くときに効いているのは、多くの場合、一度きりの「お願い」ではありません。論点そのものを、関係者と一緒に少しずつ編集していく継続的な対話です。

私たちは自社の活動を「エビデンスと対話で、イノベーションと社会が調和するルールをつくる」と表現しています。この「対話」は、耳あたりのよい姿勢の表明ではなく、実務の方法そのものを指しています。本稿では、「対話で政策をつくる」とは具体的に何をすることなのか——要望と対話は何が違い、対話の場に何を持ち込むのか——を解説します。

要望と対話は何が違うのか

要望と対話の違いは、「一度で完結するか、往復があるか」だけではありません。もっと本質的な違いは、何を動かそうとしているかにあります。

要望は、すでに固まった自分の求めを相手に伝える行為です。「この規制を緩和してほしい」「この許認可を認めてほしい」。求めの中身は最初から決まっていて、相手の仕事はそれを受け入れるか退けるかです。

対話は、求めの手前にある論点の立て方そのものを対象にします。そもそもこの事象は何が問題なのか、どの制度の枠組みで捉えるべきなのか、誰にとっての課題なのか——こうした「問いの設定」を相手と共有し、必要なら修正していく。求めを通すことよりも、関係者が同じ土俵で問題を見られる状態をつくることを先に置きます。

なぜ往復が要るのか。制度をめぐる判断は、一つの企業の都合だけで動くものではないからです。中央省庁の担当部局には所管の論理があり、国会議員には有権者と政策の視点があり、既存の事業者や関連する業界にはそれぞれの利害があります。これらを無視した要望は、たとえ正論であっても「一社の都合」として処理されて終わります。論点を関係者と一緒に編集するとは、それぞれの立場から見ても筋の通る問いの立て方を探る作業にほかなりません。

対話の場に何を持ち込むのか——エビデンス

では、対話を成り立たせるために何を持ち込むのか。第一に挙げたいのがエビデンスです。

対話が「お願いの繰り返し」に堕さないための条件は、議論が主観のぶつけ合いではなく、共有された事実の上で進むことです。この事業モデルは実際にどれだけの利用があり、どのような影響を及ぼしているのか。海外の類似制度はどう設計され、何が起きたのか。現行制度のどこに、どのような欠落があるのか。こうした事実が土台にあって初めて、立場の異なる相手とも同じ土俵に立てます。

ここで重要なのは、事実を誰が語るかも受け止められ方を左右する、という点です。当事者である企業が自社に有利なデータだけを示せば、内容の正確さとは無関係に「ポジショントーク」として割り引かれます。研究者や中立的な立場からのフラットな分析、あるいは第三者が検証できる形のデータは、同じ内容でも受け止められやすくなります。対話の設計には、何を示すかだけでなく、それがフェアなものとして受け取られる形を整える配慮が含まれます。

対話の場に何を持ち込むのか——公共的な筋

第二に持ち込むべきは、公共的な筋です。非市場戦略とは何かでも述べたように、一企業の利益にしかならない提案を、政府機関が正当化することはできません。規制緩和の提案はイノベーションの実現や利用者の利便とセットで、規制の維持や強化の提案は安全性の確保とセットで語られます。

これは「本音を隠して建前を語る」ということではありません。むしろ逆で、自分の求めが社会にとってどう合理的なのかを、自分の側が真剣に考え抜くという作業です。自社の事業機会と、社会全体にとっての便益が重なる部分はどこにあるのか。そこを見つけられなければ、そもそも対話は成立しません。「自社が儲かるから」ではなく「社会にとって合理的だから」という筋が立って初めて、提案は検討の俎上に乗ります。

公共的な筋を立てることは、対話の相手を欺く技術ではなく、自社の求めを社会の言葉に翻訳する作業です。翻訳ができないなら、その求めはまだ対話に持ち込む段階にない、と考えたほうがよいこともあります。

対話には「時機」がある——政策の段階に応じた関与

対話は、いつ始めてもよいものではありません。パブリックアフェアーズのKPI設計でも触れたように、政策は段階を追って形成されます。まだ誰も課題として認識していない段階、関係者が問題意識を持ち始めた段階、審議会・検討会で正式に議論される段階、制度として具体化される段階——それぞれの段階で、有効な対話の中身は異なります。

課題が認識される前の段階でいきなり具体的な制度変更を求めても、相手には受け止める枠組みがありません。この段階で必要なのは、論点を理解してもらうための対話——事象の構造を共有し、なぜそれが課題なのかを一緒に確かめる作業です。この土壌づくりを経て初めて、後の具体的な提案が受け止められるようになります。

逆に、制度化の議論が進んだ段階になってから理解形成を始めても間に合いません。対話には準備期間が要り、その準備は、議論の「窓」が開く前から始めておく必要があります。「対話で政策をつくる」とは、相手のカレンダーと論点の熟度を読みながら、いま交わすべき対話は何かを見極めることでもあります。

対話は関係者の外にも開かれている

最後に、政策をめぐる対話の相手は、中央省庁や国会議員だけではないことを付け加えておきます。

パブリックアフェアーズ(PA)とは?で整理したように、PAが政府への直接の関与にとどまらない点は、その定義の核心です。新しい事業や技術が社会に受け入れられるかどうかは、制度をつくる人々だけでなく、その事業が影響を及ぼす地域、利用者、関連する業界、そして広く世論との関係の中で決まっていきます。これらのステークホルダーとの対話——社会受容性を醸成する情報発信や、業界全体での合意形成——もまた、「政策をつくる対話」の一部です。

制度は、社会の理解の上に築かれます。制度をつくる人々との対話と、社会との対話は切り離せません。対話で政策をつくるとは、この両方を一つの目的に束ねていく営みだと言えます。

まとめ

  • 政策への関与の実質は、一度きりの「要望」ではなく、論点の立て方そのものを関係者と一緒に編集していく継続的な「対話」にある。
  • 対話を成り立たせるために持ち込むのは、第一にエビデンス(共有された事実。誰が語るかも受け止められ方を左右する)、第二に公共的な筋(自社の求めを社会の言葉に翻訳する作業)。
  • 対話には時機がある。政策の段階に応じて、有効な対話の中身は変わる。準備は議論の窓が開く前から始める。
  • 対話の相手は政府だけではない。制度をつくる人々との対話と、社会との対話は切り離せない。

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執筆:長島 淳史
OpenPolicy株式会社 代表取締役

国土交通省、公正取引委員会を経て、Airbnb、Facebook、Match Group / Eurekaにて政策渉外に従事。その後、OpenPolicy株式会社を創業。戦略から実装まで伴走する政策渉外・ルール形成コンサルティングを提供。

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