分析

パブリックアフェアーズのKPI設計——「活動量」ではなく「論点の前進」で測る

面会や要望の「回数」でパブリックアフェアーズ(PA)を測ると、活動は回っているのに前進しない状態を見逃します。成果まで時間がかかり因果も見えにくいPAを、政策プロセスの段階に沿って「論点がどこまで動いたか」で測る——先行指標の設計を実務の視点から解説します。

長島 淳史 2026年7月16日 9 min read
要点
  • パブリックアフェアーズ(PA)のKPIを「面会件数」「要望の本数」で置くと、活動は活発でも前進しない状態を見逃し、担当者の行動もゆがめる。
  • 有効なのは、論点が政策プロセスのどの段階まで進んだかという「位置」の移動を測る先行指標——課題として認識されたか、審議会の議題に載ったか、政府文書に言及されたか。
  • 「理解を促す活動」と「具体的な要求を掲げる活動」は成功の測り方が異なる。指標を分け、誰がどの周期で見るかという体制とセットで設計する。

パブリックアフェアーズ(PA: Public Affairs)に取り組む企業が最初につまずくのは、多くの場合「進んでいるのかどうかが分からない」という一点です。中央省庁の担当部局に足を運び、業界団体の会合に出席し、審議会の動きを追う——活動は確かに積み上がっているのに、事業にとって肝心の何かが前に進んでいる実感が持てない。やがて経営層から「これは何の成果につながっているのか」と問われ、答えに窮する。PAの現場でよく見られる光景です。

この行き詰まりの多くは、能力や熱量の問題ではありません。測り方の問題です。パブリックアフェアーズ(PA)とは?でも触れたように、PAは成果が出るまでの時間が長く、因果関係も見えにくいため、評価の枠組みを後回しにすると社内で支持を失います。逆に言えば、着手の時点で「何をもって前進とするか」を設計できれば、活動は目的に束ねられ、経営に対しても説明可能になります。

本稿では、PAのKPI(重要業績評価指標)をどう設計するかを扱います。結論を先に言えば、面会や要望の「回数」という活動量ではなく、論点が政策プロセスのどこまで進んだかという「位置」で測る、という発想の転換です。

なぜパブリックアフェアーズは「活動量」で測れないのか

KPIを立てるとき、最も手が伸びやすいのは数えやすい指標です。面会件数、提出した要望書の本数、参加した審議会・検討会の数、開催した勉強会の回数。これらはカレンダーを見れば集計でき、report にも書きやすい。

しかし、これらはすべて活動量(インプット)の指標であって、成果(アウトカム)の指標ではありません。問題は二つあります。

一つは、活動量と成果が比例しないことです。面会を10回重ねても論点が一歩も動かないことはあり、逆に、要所を押さえた一度の対話が流れを変えることもあります。回数を追う指標は、「活動は活発だが前進はしていない」という最も危険な状態——多忙が成果の不在を覆い隠す状態——を検知できません。

もう一つは、活動量の指標が担当者の行動をゆがめることです。「面会件数」が評価されるなら、成果に結びつかない面会でも数を稼ぐ誘因が生まれます。指標は測るだけでなく、測られる側の行動を作ります。数えやすいものを指標にすると、数えやすい行動が増えるだけで、事業にとって意味のある前進からはむしろ遠ざかりかねません。

経営管理の言葉を借りれば、活動量は遅行指標(lagging indicator)ではなく、成果とすら連動しない単なる作業量にすぎない場合が多いということです。必要なのは、最終成果(規制の変更、許認可の獲得、予算の計上など)に先行して動く先行指標(leading indicator)を、PA固有の文脈で設計することです。

「論点の前進」を測る——PAのKPI設計の核心

では、PAにおける先行指標とは何か。鍵は、政策は段階を追って形成されるという事実にあります。

一つの論点が制度になるまでには、おおむね次のような段階があります。まだ誰も課題として認識していない段階、一部の関係者が問題意識を持ち始めた段階、中央省庁や国会議員の関心事項に入った段階、審議会・検討会で正式に議論される段階、政府文書(骨太の方針や各種戦略)や審議会の資料に論点として現れる段階、そして条文や制度設計として具体化される段階。

最終成果である「制度の変更」は最後の段階でしか観測できません。しかしその手前で、論点は着実に段階を上がっていきます。この段階の移動そのものを指標にするというのが、PAのKPI設計の核心です。

たとえば、次のような問いは、いずれも段階の前進を捉えています。

  • これまで認識されていなかった論点が、関係する部局や国会議員に「課題」として認識されたか。
  • 自社が重要と考える論点が、審議会や検討会の議題に載ったか。
  • その論点が、政府の文書や審議会の配布資料に、こちらの意図に沿った形で言及されたか。
  • 論点をめぐる議論に、当初は関与していなかった他の関係者(他省庁、他業界、有識者)が加わったか。

これらは最終成果ではありませんが、最終成果に確実に先行し、かつ外形的に観測できる指標です。「面会を何回したか」ではなく「面会の結果、論点が半段でも上がったか」を問う。この違いが、活動を成果に接続します。

重要なのは、こうした指標が因果の見えにくさを補う点です。制度が変わるまで待っていては、施策の当否を判断するのに何年もかかります。段階の移動を追えば、はるかに短いサイクルで「効いているのか、方向を変えるべきか」を判断できます。

「理解の場」と「要求の場」を分けて測る

もう一つ、KPI設計で見落とされがちなのが、活動の種類によって成功の測り方が異なるという点です。

PAの活動は、大きく二つに分けられます。一つは、自社や業界の置かれた状況、技術の中身、論点の構造を関係者に理解してもらうための活動。もう一つは、具体的な制度の変更や新設を求める活動です。この二つは、目的も、時間軸も、成功の定義も異なります。

理解を目的とする活動は、すぐに制度の変更につながるものではありません。だからこの活動を「要望が通ったか」で測るのは筋違いです。ここでの先行指標は、たとえば「論点に対する関係者の理解が、共通の前提として共有されるようになったか」「こちらの提示した見取り図が、相手の側から語られるようになったか」といった、認識の変化の側にあります。理解形成は、後の要求が受け止められるための土壌づくりであり、その進捗は土壌の質で測るべきものです。

対して、具体的な要求を掲げる活動は、政策プロセスのタイミングに強く従属します。たとえば予算に関わる要求であれば、政府の予算は例年、初夏に内閣府が閣議決定する「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)、8月末の概算要求、年末の政府予算案という流れで固まっていきます。上流の段階を逃すと、その年の予算には反映されません。つまり要求活動のKPIは、カレンダー上の「窓」に対して、必要な準備(論点の設計、関係者の理解、根拠資料)が間に合っているか、という時間の指標と結びつきます。

この二つを一つのKPIで測ろうとすると、どちらも正しく評価できません。理解形成の活動を「成果が出ていない」と切り捨ててしまったり、逆に、時機を逃した要求活動を「活発だからよし」としてしまったりします。活動の種類に応じて指標を分けることが、PAを正しく評価する前提になります。

KPIを「体制」とセットで設計する

指標を設計したら、それを誰が、どの周期で確認するかという運用まで決めて初めて、KPIは機能します。

PAは成果までの時間が長いため、四半期や半期といった通常の事業サイクルでは、最終成果がほとんど動きません。だからこそ、先行指標を短い周期でレビューする仕組みが要ります。論点が段階を上がったか、次の「窓」に向けた準備は進んでいるか、想定していなかった関係者の動きはないか——こうした点を定期的に棚卸しし、活動の方向を微調整する。この積み重ねが、長い時間軸の活動を経営の管理下に置きます。

外資系企業のPA部門が日本企業に比べて制度化されて見えるのは、この運用の設計が組み込まれているからでもあります。本国への定期報告のラインが引かれ、何を進捗として報告するかがあらかじめ定義されている。報告の様式が、そのままKPIの様式として機能しているのです。

裏を返せば、KPIの設計は、PAを「担当者の属人的な努力」から「経営の機能」へと引き上げる作業でもあります。何をもって前進とするかが共有されていれば、担当者が代わっても活動は継続し、経営層も投資判断ができます。指標の設計は、単なる評価の技術ではなく、PAを組織に根づかせるための基盤づくりだと言えます。

まとめ

  • PAのKPIを「面会件数」「要望の本数」といった活動量で置くと、活動は活発でも前進しない状態を見逃し、担当者の行動もゆがめる。
  • 政策は段階を追って形成される。論点が政策プロセスのどの段階まで進んだか——認識、議題化、政府文書への言及、議論への関係者の参加——という「位置」の移動を先行指標にする。
  • 「理解を促す活動」と「具体的な要求を掲げる活動」は、目的も時間軸も成功の定義も異なる。指標を分けて測る。
  • 指標は、誰がどの周期でレビューするかという体制とセットで設計して初めて機能する。KPIの設計は、PAを属人的な努力から経営の機能へ引き上げる作業でもある。

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執筆:長島 淳史
OpenPolicy株式会社 代表取締役

国土交通省、公正取引委員会を経て、Airbnb、Facebook、Match Group / Eurekaにて政策渉外に従事。その後、OpenPolicy株式会社を創業。戦略から実装まで伴走する政策渉外・ルール形成コンサルティングを提供。

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