コラム

政策渉外・パブリックアフェアーズ活動のための政策スケジュールの把握

企業が政策渉外・パブリックアフェアーズ活動によって政策形成を実現するためには、どのような活動をすべきかに加えて、いつ活動を行うべきかも重要です。政策決定までの長いプロセスを、法律・予算・税制の3つのツールと年間スケジュールから整理します。

長島 淳史 2025年10月8日
1月から12月の政策形成スケジュール。内閣、各省、国会・政党の動きを、法律・予算・税制の検討から国会審議までの流れで示した図。
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はじめに

企業が政策渉外・パブリックアフェアーズ活動によって政策形成を実現するためには、どのような活動をすべきかに加えて、いつ活動を行うべきかも重要です。

政策に関するニュースはメディアに頻繁に取り上げられますが、多くの場合、国会審議や大臣会見などを断片的に切り取ったものであり、政策決定段階のものが多いです。

しかし、実際には、政策決定までには長いプロセスが存在しています。本記事では、政策形成プロセスを理解するための参考となる情報をお伝えします。

目的とする政策は何によって実現されるのか?

いつ政策渉外・パブリックアフェアーズ活動を行うべきか考えるにあたって、前提として実現したい政策が何によって実現されるのかを理解しておく必要があります。なぜなら、実現したい政策によってスケジュールが変わってくるからです。

たとえば、規制が新規事業のボトルネックとなっていて法律の改正が必要なのか、新技術開発のための補助金が必要なのかなど、事業課題を踏まえて、どのような政策の実現が必要なのか、政策目標を設定する必要があります。

政府が政策を実現するためのツールは大きく以下の3つがあります。

①法律

1つ目が法律の制定・改廃です。企業にとっては規制の強化・緩和という形で影響を受けるものです。

国の唯一の立法機関は国会なので、法律は国会審議を経て、制定・改廃されます。したがって、自社の政策課題が法律に関連する場合、国会審議のスケジュールを念頭に置く必要があります。

ただし、法律そのものにすべての内容が記載されるわけではなく、専門的な内容については、政令や省令といった下位の法令に委任がなされています。

政令は閣議で制定され、省令は各省庁(各大臣)が制定します。政省令は国会審議を必要とするものではないため、国会閉会中も策定が可能です。

また、省令より下に、行政の解釈を示す指針・ガイドライン・通達などもあります。これらは正式には「法令」の範囲には入らず、強制力を有しないものですが、日本では行政のガイドラインが事実上守らなくてないけないものとして認識されることが多いため、ガイドラインへの反映によって政策目標を達成するということもあります。

当然ながら、指針・ガイドライン・通達も国会審議を経る必要がありませんので、国会閉会中も策定が可能です。

②予算

予算については、6月に閣議決定される「骨太の方針」を踏まえ、8月末には各省庁が翌年度予算の概算要求を提出し、財務省査定を経て、12月下旬に政府予算案が確定します。

政府予算案は翌年1月に国会へ提出され、3月末までに予算が成立するのが通例です。

国会審議が必要という点は法律と同じですが、予算は年度当初の4月から執行が始まりますので、3月までに成立している必要があります。

(一方、法律については、予算関連のものは予算と同様に3月までに成立している必要がありますが、予算に関連しないものは通常国会の会期末である6月頃までに成立する場合が多いです。)

③税制

税制も予算とほぼ同様のタイミングでプロセスが進みます。8月末までに各省庁が財務省へ税制改正要求を行い、与党税制調査会での議論などを経て、12月下旬に「税制改正大綱」が取りまとめられるのが一般的です。

その後、1月に国会提出、3月末までに成立という流れは予算案と概ね同様です。ただし、税制については特に政治的要素が強く、与党第一党である自民党税制調査会が大きな影響力を持つとされます。

税制のプロセスは、塩崎彰久衆議院議員の解説が参考になります。

政策形成スケジュール

ここまで政策の種類の違いを見てきましたが、ここからは政策形成スケジュールを見ていきたいと思います。

一般に公開されている資料としては、経済産業省の「政策形成プロセス情報キット」が参考になります。

~6月:骨太の方針などの策定

毎年6月には、以下のような政策の方針を示す重要な文書が閣議決定されます。

  • 経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)
  • 成長戦略
  • 規制改革実施計画

これらはいずれも、次年度の予算・税制・法律の方向性を定める文書です。閣議決定により政府全体の基本方針が固まるため、各省庁はこれに沿った政策を進める必要があります。

なお、成長戦略は政権によって呼称が変わることも多いです。たとえば、2021年の菅政権では「成長戦略実行計画」という名称で成長戦略を取りまとめ、その後の岸田政権では「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」という名称が用いられました。名称は政権の方針によって変わるため、その年にどの文書が成長戦略にあたるのかを確認する必要があります。

骨太の方針は内閣としての決定になりますが、記載されている具体的な政策については、各省庁の審議会や研究会の取りまとめ内容が反映されることが多いです。

また、政党レベルでは、自民党政務調査会などが政府に対して提言を行います。

たとえば、2025年6月11日には、自民党の情報通信戦略調査会がネット上の誹謗中傷・偽誤情報等の対策について提言を行っていますが、提言内容は、総務省の検討会(「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」)の内容と連動しています。

このように、各省庁・与党(自民党など)・内閣が連動して、政策方針を6月に示すというプロセスになっていることを押さえておく必要があります。

7~12月:各省庁による予算・税制改正要求と法案概要づくり

6月に取りまとめが行われた骨太の方針に基づき、各省庁の予算要求、各省庁と財務省の折衝、政府としての予算案の策定というプロセスが12月まで行われます。

なお、霞が関の幹部人事は通常国会が6月に終了した後の7月の頭に行われることが多いです。

骨太の方針がまとめられ、翌年度の政策づくりが本格化するこのタイミングは元々重要な時期です。さらに、霞が関の体制が変わることにより、新しい政策の検討が始まることもあります。つまり、翌年度の政策だけでなく、その先を見据えた活動も考える必要があり、この時期は政策渉外・パブリックアフェアーズ活動の仕切り直しとしても重要な時期です。

7月以降の大まかな流れは以下のとおりです。

各省庁による予算要求・税制改正要望(8月末提出) 6月に策定された骨太の方針などを踏まえて、各省庁は財務省へ概算要求を提出します。翌年度に予算化される事業はこの時点で盛り込まれている必要がありますので、政策渉外・パブリックアフェアーズ活動としては、骨太の方針以降も継続的な情報提供などが必要です。

各省庁による法案づくり、内閣法制局との調整 秋の終わりから年末にかけて、翌年の通常国会に提出される法案の概要が固められます。各省庁は内閣法制局と条文の適法性・整合性を協議しつつ、法案を固めていきます。

政府予算案の取りまとめ(12月下旬)、税制改正大綱の公表(12月中旬~下旬)、法案提出準備と与党審査 10~12月は、各種の調整が同時並行で進むため非常に慌ただしく、メディアで言うところの陳情ラッシュが見られる時期でもあります。政策形成の意思決定に関与する省庁の担当者や国会議員との関係性が重要になってくるため、日頃の信頼関係づくりがとても重要です。法案については、年末頃には、翌年1月に召集される通常国会へ向け、政府は各種法案を最終的に取りまとめていきます。自社にとって致命的な課題がある場合は、最後の追い込みの時期となります。例えば、書籍『テックラッシュ戦記: Amazonロビイストが日本を動かした方法』には、2020年のデジタルプラットフォーム取引透明化法をめぐる前年末の調整過程が詳しく描かれています。臨場感ある事例のため、最後の局面での政策渉外・パブリックアフェアーズ活動を学ぶ上で参考になります。

1~6月:予算案・法案の国会審議

年が明けると、予算案と関連法案が国会に提出され、1~3月の通常国会で審議が始まります。

予算案の審議(1~3月) 国会が予算案を審議します。3月末までに成立させるのが通例で、国会日程の最優先事項となります。

関連法案の審議(1~6月頃) 予算関連法案以外の主要法案も順次審議が進みます。会期末(6月頃)までに法案が成立します。

注意点

臨時国会と補正予算

最近では、通常予算に加え、補正予算を組成することが常態化しつつあり、秋頃の臨時国会の開催も常態化しています。6月頃に通常国会が閉会すれば、政策の仕込み時期に入りますが、臨時国会があることで、政策議論が非常にアクティブな時期が続くとも言えます。企業にとっても、明確なタイミングで政策提案をするというより、常時臨戦態勢で考える必要がでてきています。

政治の動き

国会で与党が安定した多数を持っているかどうかは、政策形成のプロセスに直接影響します。与党だけでは予算や法案を可決できない局面では、野党との政策協議が前提になり、政府が提出した案の内容が国会審議の段階で動くことがあります。

実際に、2025年の予算案では、与党(自民党・公明党)が日本維新の会の掲げる教育無償化を受け入れることで、同党から予算案への賛成を得て、予算を成立させました。

企業の側から見れば、こうした局面では政府案が固まった後も内容が変わり得るということです。議席の構成は選挙のたびに変わりますので、自社の論点に関わる法案・予算については、国会に提出された後の動きまで追う必要があります。

可決後の運用設計(政省令・ガイドラインづくり)

法律が成立しても、実際に施行するには省令やガイドラインで運用基準を細かく定める必要があります。パブリックアフェアーズ活動において、法律などの上位のルールのみを注視し、法律が決まった段階で活動のウェイトを下げてしまう企業が多いですが、企業へ影響を与える内容は細部に宿ります。下位法令やガイドラインの策定においても、所管官庁と連携し、自社への影響や疑義を事前にクリアすることが重要です。

おわりに

1年を通じて眺めると、政策形成には4~6月の基本方針策定や年末の政府予算案・税制改正大綱など、いくつもの山場が存在します。

そのためには日頃からの地道な関係構築が欠かせません。自社のビジネス上のメリット(経済的価値)でなく、社会的価値に資するエビデンスやビジョンを提示し、タイミングを見極めながら中長期的に政策提言を続けることが必要です。

長島 淳史
長島 淳史
OpenPolicy株式会社 代表取締役

国土交通省、公正取引委員会を経て、Airbnb、Facebook、Match Group / Eurekaにて政策渉外に従事。その後、OpenPolicy株式会社を創業。戦略から実装まで伴走する政策渉外・ルール形成コンサルティングを提供。

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